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鳥取家庭裁判所倉吉支部 平成元年(家)40号 審判 1990年1月22日

主文

1  相手方から申立人に対し、別紙物件目録(編略)記載3の土地を分与する。

2  相手方は申立人に対し、右土地につき財産分与を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

理由

第1申立ての要旨

主文と同旨。

第2申立ての理由

1  申立人と相手方は、昭和51年3月30日婚姻したが、相手方の不貞行為により婚姻生活が破綻したので、申立人は相手方を被告として鳥取地方裁判所倉吉支部昭和60年(タ)第11号離婚等請求事件を提訴し、離婚認容判決(昭和62年2月13日確定)を得て裁判離婚した。

2  申立人と相手方が婚姻中に形成した財産は、両名の住居用土地建物である別紙物件目録記載1ないし3の不動産(以下「1の土地」、「2の建物」のように番号で表示する)であり、1、3の土地は相手方の単独所有名義で、2の建物は申立人と相手方の共有名義で登記され、1、2の土地建物にはその購入資金の借入債務を担保するため相手方を債務者、債権額を550万円とする○○銀行の抵当権設定登記が経由されていた。なお、3の土地は前記離婚請求訴訟係属中の昭和61年2月15日に相手方が○○町から19万8000円で購入したものであり、2の建物のごく一部が3の土地上に存在する。

3  申立人は、前記離婚請求訴訟において、慰謝料も含めた財産分与として、1の土地全部及び2の建物の相手方の共有持分の分与を求め、これが認容されたのであるが、申立人は3の土地について分与の申し立てをすることを失念したため、3の土地については前記離婚訴訟において争点とならず、依然として相手方所有のままである。

4  3の土地は、前記のとおり相手方が離婚訴訟係属中に19万8000円で取得したものではあるが、同土地は2の建物の敷地一部であるうえ、前記離婚判決は、1、2の土地建物に設定されている前記抵当権の被担保債務は相手方において弁済すべきことを前提として、1、2の土地建物を申立人に分与する旨判示しているのに、相手方は昭和63年6月分以後右被担保債務の分割弁済(1か月約4万3000円)を拒否し、申立人にその代位弁済を余儀なくさせていること等の諸般の事情に照らすと、3の土地は申立人に対し離婚に伴う財産分与として分与されるべきである。

第3相手方の主張

申立人と相手方間の離婚に伴う財産分与については、申立人主張の離婚判決により一切解決済みであるから、新たな分与の申立は許されない。

第4当裁判所の判断

1  当裁判所が職権で取り寄せた鳥取地方裁判所倉吉支部昭和60年(タ)第11号離婚等請求事件の記録及び○○町長から送付を受けた資料によると、申立人が申立ての理由として主張する1ないし3の各事実が認められる。

2  右の事実によると、申立人と相手方との間においては離婚と同時に財産分与を命じた確定判決が存在するのであるが、離婚と同時に判決主文で財産分与が認められた場合といえども、財産分与の申立てが非訟事件であることに変わりはなく、この点に関する判断には既判力がないと解すべきであるから、判決後に財産が発見された場合やこれに準ずるような格別の事情が認められる場合には、改めて財産分与を求める審判の申立てをすることが許されるものというべきである。したがって、離婚判決において財産分与が判断されたというだけで、申立人の本件申立てが許されないとする相手方の主張は失当である。

3  前掲各証拠のほか、申立人提出の甲第1ないし第4号証、当裁判所が職権で取り寄せた倉吉簡易裁判所昭和63年(ハ)第24号損害賠償等請求事件の記録及び相手方本人に対する審尋の結果によると、申立人は、相手方の不貞行為に耐えかねて昭和60年2月23日以後2の建物から出て相手方と別居したのであるが、その後1の土地の西側に隣接する○○町所有墓地の拡張工事に伴う測量により、2の建物の敷地内に○○町所有地が取り込まれており、その範囲が3の土地部分に当たることが判明し、相手方は○○町から3の土地部分の明渡を求められたので、○○町と交渉した結果、3の土地部分を分筆して買い受けることとし、申立人が離婚訴訟を提起した後の昭和61年2月15日、○○町との間で3の土地を買い受ける契約を結び、同月17日所有権移転登記を経由したこと、3の土地の状況は別紙図面表示のとおり、面積は22m2あるが最大幅1.30m以下、長さ約24mの細長い土地であって、3の土地だけでは殆ど利用価値がなく、1の土地と一体となってはじめて価値があるに過ぎないこと、他方2の建物はごく一部ではあるが3の土地にかかっており、2の建物にとっては3の土地は不可欠な物件であること、前記離婚判決においては、1、2の土地建物に設定されている抵当権の被担保債務は債務者である相手方において弁済すべきことを前提として、1、2の土地建物を申立人に分与する旨判示しているところ、相手方は昭和63年6月分以後の右被担保債務の分割弁済(1か月約4万3000円)を拒否し、申立人がやむなく代位弁済していること、以上の事実が認められる。

4  ところで、相手方本人の審尋結果によると、相手方は申立人に対し、離婚訴訟の係属中に、○○町から3の土地の明渡を求められたので交渉してこれを買い取った旨説明した(但し、3の土地の測量図までは示していない)と述べており、申立人も3の土地の財産分与を求めるのを失念していたと主張しているのであるから、3の土地の存在は前記離婚判決後になって申立人に判明したものではない。しかし、申立人において、3の土地が2の建物の敷地として不可欠の物件であることを知っておれば、前記離婚訴訟における財産分与の対象として当然3の土地を取り上げたはずであり、裁判所も3の土地を1、2の土地建物と共に申立人に分与する判断を示したはずである。にもかかわらず、申立人が3の土地の分与申立を失念していたということは、3の土地の現況(特に2の建物との位置関係)についての認識がなく、その重要性に気付いていなかったためであると認められる。

5  してみると、申立人は前記離婚判決で財産分与の判断が示された後に、3の土地の重要性を知ったものであるから、財産分与の判決後に財産を発見した場合に準じて、3の土地について改めて財産分与の判断を加えることができるものというべきである。そして前叙のように、3の土地は、1、2の土地建物の分与を受けた申立人にとっては不可欠の重要な物件であるのに対し、相手方がこれを取得するのに要した費用は僅か19万8000円であって、相手方をはじめ申立人以外の第三者にとっては殆ど利用価値のない物件であるうえ、相手方は前記抵当権の被担保債務の分割弁済を拒絶し、申立人にその代位弁済を余儀なくさせ、3の土地の取得代金をはるかに超える出捐をさせている事情をも勘案すると、3の土地も申立人に分与するのが相当である。

よって、主文のとおり審判する。

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